生まれ変わる築地の未来像
東京人 やっぱり、築地が面白い!

生まれ変わる
築地の未来像

築地は庶民的なまちであるいっぽう、
銀座や丸の内に近いという地の利も魅力のひとつだ。いま築地は、再開発を控えて大きく変わろうとしている。
その将来像とは―。

あおやま やすし 明治大学名誉教授、令和防災研究所所長。
1943年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、
67年東京都庁経済局に入庁。中央市場、目黒区、政策室、
衛生局、都立短大、都市計画局、生活文化スポーツ局などを経て、
高齢福祉部長、計画部長、政策報道室理事などを歴任。
1999〜2003年、石原慎太郎都知事のもとで東京都副知事
(危機管理、防災、都市構造、財政などを担当)。一般社団法人都市調査会代表、
一般社団法人東京都農業会議会長などを務める。
著書に『世界の街角から東京を考える』『痛恨の江戸東京史』ほか多数。

 東京都は「都市づくりのグランドデザイン」などをつくり東京全体の都市計画を見直しました。二十世紀は一九八〇年代以降、一極集中していた都市機能を分散立地させるため、新宿や池袋、渋谷を軸に、大崎、錦糸町・亀戸、上野・浅草、臨海副都心を加えた七つの地域を中心に開発を進め、二十世紀末からは都心の機能更新を進めてきました。

 その開発を終え、次の都市デザインは二〇四〇年代の完成をめざして、三つの地域の再開発を柱に進められるでしょう。一つ目は大手町や丸の内、有楽町、常盤橋、日本橋、京橋、八重洲などの「東京駅を取り巻く地域」。二つ目は赤坂、六本木から虎ノ門、新橋、汐留、浜松町、竹芝までの「赤坂・六本木と周辺地域」。三つ目は「築地から臨海へ延びる地域」です。

 ご承知の通り、東京駅周辺ではさまざまな開発計画が出揃い、次々とビルの建設が始まっています。また、「赤坂・六本木」でも虎ノ門などで大規模なビルの建て替えが進行。新橋駅周辺の老朽化したビルの再開発計画も公表されています。

 再開発三つの軸の中で、最も変わるのが「築地から臨海へ延びる地域」です。築地の魅力に「銀座に近い」ことをあげる方も多くいますが、これはあくまでも「いま」のメリットです。これからは、東京の代表的なまちとして再生される八重洲や日本橋にも歩いて行けるまちとして、「地の利」の注目度がより増すことになるでしょう。

 さらに、築地自身も「臨海へ延びる都市への出発点」に変革していきます。東京中央卸売市場跡地は、六本木ヒルズの約二倍の広さがあり、都心では「最後の大規模開発地」です。東京都はこの跡地に、MICE(マイス)と呼ばれる国際会議などが開ける国際会議場や展示場を建設していきます。

 東京ではかねてより、これらの大規模施設が足りないと言われてきましたが、完成すれば、臨海副都心の東京ビッグサイトや有明コロシアム、辰巳国際水泳場などと併せ、「一大国際スポーツ・エンターテインメントゾーン」ができあがります。これまで逃していた国際的なビジネス客を取り込み、大きな経済効果を得ることができるでしょう。しかも跡地は、浜離宮恩賜庭園に隣接する景観のよい好立地であり、隅田川に接していることで、羽田空港や日本橋からはクルーザーで観光客やビジネス客を呼び込めます。

 また、現在、虎ノ門から浜松町までの主要なビルを結ぶ「歩行者用のデッキや地下道」は、今後、高層ビルが建築されている浜松町や竹芝を通って、築地ともつながります。築地周辺では、その歩行用通路だけでなく、新地下鉄計画などの交通機関の整備も進められます。二十年後の都市開発を環境面から考えれば、移動手段がガソリン車以外のものになっているとするほうが普通でしょう。

東京の経済活動を担う拠点群(東京都市白書「CITY VIEW TOKYO」を元に作図)

築地はこれからの「東京の顔」。

 余談ですが、世界の豊かなまちでは「水辺」もしくは「階段」が上手に活用されています。例えば、パリのベルシー地区とその周辺は、再開発に成功したまちのひとつです。セーヌ川のほとりにある階段に多くの人が腰かけて、ゆったりと時間を過ごしている姿がとても印象的な地区でもあります。モンマルトルの丘にそびえ立つサクレ・クール寺院の前にある階段にも多くの人が腰かけ、長い時間、パリの美しいまち並みを眺めています。また、ロンドンのピカデリーサーカスのエロス像前の階段も然り。人が集うところには新たな文化が生まれ、さらに多くの人を集めるのです。

 築地にも、隅田川に面した水辺ゾーンに階段状に人々が座って海側を眺める場所が設置されると、日常でありながら、都心の喧騒から離れた非日常的な癒しが感じられる場になってくれるはずです。

 築地は、「食」だけではなく、海に開けたまちであり、日本で初めてアメリカンスクールが開校するなど、外国人との交流を深めながら歴史を築いてきたまちでもあります。これからは、その歴史に、他の地域の発展を重ねながら、自らも進化し、東京の持続的成長を実現してくれるでしょう。これからの「東京の顔」に相応しいまちだと、私は思っています。

うちだ まさみ フリーアナウンサー、ライター。
1988年ラジオNIKKEI入社後、「経済情報ネットワーク」「東京株式実況中継」
などの株式情報番組を担当。現在はフリーで活動。